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今回は、2014年4月26日(土)に開催となった日本科学未来館(東京都江東区青海)の
トークイベント「南十字星の空に巨大望遠鏡を向けて」についてご報告します。

このトークイベントに出演されたのは、オーストラリアの天文学者で、ブライアン
=シュミット教授とブライアン=ボイル教授の2名でした。

お二人ともファーストネームがブライアンですので、「ブライアン!」と呼びかける
と同時にふり返ることになるため、それぞれラストネームで呼ぶことになります。

ブライアン=シュミット教授はオーストラリア国立大学の名誉教授で、2011年に、
宇宙の加速膨張を観測的に実証したことからノーベル物理学賞を受賞しました。
超新星探索を行なうための「ハイZ」チームに所属して、Ia型超新星(後述)を観測、
同じ研究でノーベル物理学賞を受賞した残るもう2名のうち、アダム=リース教授は
同じ「ハイZ」チームに属しており、サウル=パールムッター教授はSCPチームに
所属し、熾烈な競争を展開していました。

ブライアン=ボイル教授は、オーストラリア スクエア キロメータ アレイ(SKA)の
オフィス ディレクタを務めています。SKAは大型の電波干渉計でオーストラリア
と南アフリカに干渉計がおかれる大型の国際プロジェクトです。似たような観測計
画に、チリ・アタカマ高地のALMAがあり、SKAはより長波長の領域で宇宙の起源
や謎に迫ることを目指しています。



本イベントでは、講演中の撮影・録画などが禁止となっているため、開会前または
閉会後の画像のみでご了承ください。なにしろ、画像でご紹介できないのが非常に
残念に感ずるところです。

開会前の準備中の会場客席(関係者席)には、シュミット・ボイル両教授とともに日本
科学未来館館長の毛利衛さんも並んで座っていました。3名の高名な方々が隣り合っ
て座る様子は非常に絵になる光景でした。

トークイベントに入る前に、シュミット教授に未来館名誉館員の顕彰式が執り行われ
ました。科学の分野で多大な功績のあった方に贈られるもので、過去には小柴昌俊教
授や小林誠・益川敏英両先生、鈴木章・根岸英一先生、山中伸弥先生といった、錚々
たる方々が名を連ねています。
名誉館員に選ばれた先生方には、名誉館員の箱という、メッセージを添えたカギ付き
の箱が額縁として託されます。これは日本科学未来館の1階シンボルゾーンに設置され、
一般観覧者は開館時間中であればいつでも見られ、名誉館員もいつでもカギを開けて
メッセージを取り替えることができます。

毛利衛館長は、オーストラリアの大学に留学した経験があります。毛利さんが豪州で
の留学を決めた理由は、南十字星を見てみたかったこと、そしてトイレの水が北半球
では右回転するのに対して、南半球では左回転するとのうわさを実地に確かめたかっ
たからだ、と述べていました(実際には、右・左どちらにも回転することを身をもって
確かめたとのことでした)。

宇宙の探索や研究の目的に使われる望遠鏡は、口径の大型化が進み、あるいは大気の
影響を避けるために高山や宇宙に設置されることも珍しくありません。口径が大きく
なるのは微かな光を効率よくとらえるためですし、高山や宇宙に行くのは大気による
揺らぎや減衰を避けるためです。

また同時に、宇宙の遠方ほど遠ざかる速度(後退速度)が大きくなるため、光の波長が
長くなる効果が強まります(赤方偏移)。また、塵の中を遠方まで透過する光は長波長
よりですから、望遠鏡は可視赤外線域に、電波望遠鏡でもミリ波やサブミリ波といった
領域での観測が中心となります。
現代は、宇宙の深い領域(宇宙に星が誕生し始めた時代)の観測でしのぎが削られており、
そうした宇宙初期の光をとらえるための大型プロジェクトが推進・または提案されて
います。

地上望遠鏡としては日本が主導する30m光赤外望遠鏡(TMT)、豪州ではSKA、チリ・
アタカマではALMAがそれぞれ着工または稼働し始め、宇宙望遠鏡ではHSTやHerschel
(~2013)が運用、次期計画としてはJWST(NASA/ESA/CSA)、SPICA(JAXA/ESA)が
準備中です。

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さて、宇宙は138億年前に、「ビッグバン」と呼ばれる爆発的な現象によって大量の
物質が生ずるとともに空間が拡張し、星や銀河の形成を経て現在のような姿になりま
した。こうした宇宙の誕生を説明するのが「ビッグバン」宇宙論で、宇宙がビッグバン
で誕生したと考えた人たちには、ベストー=スライファー(1875-1969)やエドウィン=
ハッブル(1889-1953)といった観測研究者やジョルジュ=ルメートル(1894-1966)
のような理論家がいました。

とりわけ、ルメートルはアルベルト=アインシュタイン(1879-1955)が提唱した一般
相対性理論(1915-16)からビッグバンによる宇宙の誕生を結論付けていました。
しかし、アインシュタインはビッグバン宇宙論を受け入れることができず、宇宙が昔
からほぼ一定の状態で存在したとする定常宇宙論を信じ続け、後に「人生最大の失敗」
と悔やむことになります。

しかしながら、宇宙誕生により生成される大量の物質は素粒子であり、ミクロの世界で
支配的な量子論的効果を考慮する必要があります。こうした量子論的効果を取り入れた
理論の中でも代表的なものが「インフレーション理論」で、アラン=グースや佐藤勝彦
といった研究者が提唱しています。

「ハイZ」やSCPなどのチームは、宇宙がこれからどのように進化していくのかを探る
方法の1つとして、Ia型超新星の探索をすることを決めました。

宇宙の距離スケールは、対象となる天体の距離によって適切な物差しが変わってきます。
遠方の銀河や銀河団までの距離を決めるのに適した「ものさし」が、Ia型超新星です。

超新星とは、太陽の8倍以上の星の寿命が尽きるときに起こる大爆発で、Ia型超新星は
白色矮星に伴星からの物質が降り込み、大爆発を起こすタイプです。ピーク時の明るさ
が一定であるため、その距離との相関で見かけの明るさが決まるので、正確に遠方銀河
までの距離が決定できます(白色矮星も寿命が尽きかけた星)。

もちろん、爆発現象ですからいつ起こるかは分からず、空の領域を一定の時間間隔で撮影
し、発生した超新星爆発から距離を求めるという地道な作業が要求されます。

宇宙がビッグバンで誕生したとして、勢いよく空間が拡張し続けたとしても、存在する
物質間に働く重力の作用でいずれはその勢いも衰えていきます。ある限界以内であれば
膨張し続けますが、その限界を越えて大量に物質があればいつか収縮に転じると予想さ
れます。

観測されたIa型超新星のスペクトルを比較することで後退速度が分かります。超新星爆発
の明るさが暗いことから、宇宙の膨張速度は減速するどころか加速している、との結論が
2つのチームの観測から得られました。

こうした、定説として受け入れられてきた予想に対して、それを否定するような結果が
得られた時、たいていの科学者は観測にエラーがあったと否定するか、そうでなくとも
慎重になるものです。アインシュタインの一般相対性理論でさえ、提唱されたばかりの
20世紀初頭はそうでした。
実証のために数多くの望遠鏡が動員され、観測に間違いないことが分かると、大きな称賛
がこれらの研究者に与えられることになります。

ここで立証されたのは宇宙の後期インフレーションであり、宇宙創成初期のインフレー
ションについては今後の観測が待たれます。JAXA/KEKが提唱するLiteBIRDミッション
(2017年以降)が実現すれば、佐藤勝彦先生が提唱するインフレーション宇宙論が正しい
のかどうか、決着がつくでしょう(佐藤先生は現在、自然科学研究機構の機構長)。

月光天文台では「宇宙と天文の講演会」で講師を依頼したことがあり、ぜひともその理論
が実証されるまで、元気でいてほしいと願っています。

SKAは、ALMAよりも長い波長域の100MHz~25GHz領域での観測を行なうもので、完成
すれば銀河進化や宇宙の大規模構造、宇宙生命に深くかかわる複雑な分子や系外惑星の探
索、重力場での相対性理論の検証、ダークエネルギーの解明といった分野で威力を発揮する
と期待されています。

トークイベントは、参加者の質疑応答を経て閉会、参加者は満足して帰途につきました。

報告者のU.M.は、少し早目の夕食のため、5階のカフェ(Miraikan Cafe)に寄りました。



サラダ付きのカレーライスと、ソフトクリーム付きの地球ソーダ(水バージョン)を
注文しました。
こうした科学館付きのレストランやカフェでは独自メニューがあり、味だけでなく
目でも楽しめますね。

また、1階のシンボルゾーン・ジオコスモスの広場では、16時過ぎに早くもシュミ
ット教授の名誉館員の箱も見られるようになっていました。



ぜひ、日本科学未来館に訪れることがあればご覧になってください。

なお、2014年4月24日には来日中のオバマ大統領が未来館を訪れ、若者向けの
スピーチやISSとの交信もしていたことが明らかになっています。当時ISSには
日本人初のISSコマンダ・若田光一宇宙飛行士らが滞在しており、彼らとの交信
を楽しんでいた模様です。

日本科学未来館のトップページには、当日のイベントの様子のYou Tube動画も
リンクされています。


参考文献: 『ベテルギウスの超新星爆発』(野本陽代・著/幻冬舎新書-2011年11月刊)
参考にしたサイト:下記
 日本科学未来館コミュニケーターブログ: http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201110072011-5.html
 ノーベル財団の公式サイト: http://www.nobelprize.org/index.html
 
 アストロアーツオンライン(ノーベル物理学賞):
 http://www.astroarts.co.jp/news/2011/10/05nobel_prize/index-j.shtml

 アストロアーツオンライン(SKA):
 http://www.astroarts.co.jp/news/2012/05/29ska/index-j.shtml

 日本科学未来館トークイベント(募集終了):
 http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1404261516482.html
 日本科学未来館トップページ:
 http://www.miraikan.jst.go.jp/


報告者: U.M. (月光天文台)

 (了)

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