月光天文台月光天文台

公益財団法人 国際文化交友会 月光天文台

横浜市中区山下町の一角
トップページ > 見聞録 > 『天国と地獄』-黒澤明監督に敬意を表して(その8-1)

※トップ画像は横浜市中区山下町の交差点。

横浜市中区山下町-尾行とおとり捜査の場面へ

(「その7」より続き)

「主犯はまず、この男(竹内 銀次郎)だと断定して、間違いないと思う!」--戸倉警部が神奈川県警横浜
警察署の西区浅間台誘拐事件捜査本部にて、捜査員たちを前に力強く宣言します。

この宣言に、捜査会議に出席している捜査員たちが一斉に立ち上がります。

しかし、すかさず戸倉警部は「しかし今、この男を捕まえてはならん!」と指示を出します。

この指示を合図に、捜査本部長(演:志村 喬)と捜査第一課長(演:藤田 進)が戸倉警部の背後、会議室の
前側に出ます。


戸倉警部の見立てはこうです。

まず、この時点において竹内 銀次郎(演:山﨑 努)の犯罪で立証可能なのは進一少年の営利誘拐と、権藤
を脅迫して身代金を支払わせたことに対する懲役15年分の刑罰に対応する犯行のみ。共犯者の男女を殺
害した罪に対しては、竹内の関与が強く疑われるものの、それに対しての物的証拠がなく、立証がほぼ
不可能です。

一方、身代金を支払った権藤はナショナル=シューズ社から重役の地位を追われることになり、事実上
の終身刑に服しているような状況です。

「これは我々として断じて許せない!…この様な犯人は極刑に値する!」-戸倉警部の表情には、犯人に
対する憤怒の感情が現われています。

この凶悪な犯人を、その罪に相当する服させる道はただ1つのみ、犯人を泳がせ、犯行を再現させる手段
を採ることを戸倉警部は明らかにします。


「しかし、どうやって?」-田口刑事が問い掛けます。

戸倉警部は捜査本部長の方に振り向くと、便箋を本部長から受け取り、それを掲げながら「これを渡せば
やる」と言い、続いてブラインドを降ろしてくれ、と近くにいた刑事3人に指示を出します。


戸倉警部はその便箋をOHPにセットするとスクリーンにその文面を投影させます。

「どうだ、そっくりだろう?」

スクリーンに拡大投影された文面の内容は「ヤクをくれ ヤクをくれなければ なにもかも バラすぞ」
と書かれています。竹内に宛てて書かれたと思しきボールペンでの筆跡を真似た、共犯者の主犯への手
紙が、見事に再現されていました。


-----------------------

場面は、ワイプで竹内の勤務先である病院へと切り替わります。

竹内が階段をゆっくりと降りて行きます。


待合室に待機していたカッターシャツにネクタイ姿の中尾刑事、竹内を横目に認めるとマッチで煙草に
火をつけます。労務者風の男が、中尾刑事の煙草への点火を合図に待合室の長椅子から立ち上がり、廊
下を歩いていく竹内の名を呼んで確かめると、封筒を手渡してそのまま玄関へと向かって歩き去ってい
きます。

中尾刑事は煙草をくわえながら席を移動します。

竹内はその封筒を開いて便箋の文面に目を通すと、動揺して歩き去っていく労務者風の男の方に振り返
り、追いかけようとしますがすぐに姿が見えなくなり、玄関の前で立ち止まります。

玄関では、掃除夫がデッキブラシを使い、水ぶきで清掃を続けています。

一方、前回とは打って変わり、スーツに身を固めた荒井刑事が花束と果物かごを持って現われ、見舞客
然として病院内に入っていきます。ほぼ同時に、病院の玄関先に外車が停まります。

竹内は院内の方に向き直ると、立ち止まってもう一度便箋の文面を確かめます。明らかに動揺している
竹内は手紙をくしゃくしゃに丸めると、急いで階段を駆け上っていきます。

荒井刑事は出来る限り竹内を見ないようにしながら竹内の脇を通り過ぎ、振り返ると2階の方向に視線
をやります。

待合室の廊下の内窓から、田口刑事と中尾刑事も竹内の様子を窺っていました。変装した3人の刑事の
視線が合います。田口刑事は、前回の内偵捜査の時と同じように、腰を降ろしながら無関心を装って扇
子を扇ぎ、中尾刑事は黙って椅子に腰掛け、荒井刑事は内窓に果物かごを置きます。3人とも、"間違い
ない、竹内は共犯者を殺害した"との確信を持つに至ります。


-----------------------

再び、ワイプで場面が切り替わります。

神奈川県警横浜警察署の屋上にて、訓示を兼ねた尾行ならびにおとり捜査の指示を、戸倉警部が変装した
捜査員たちに出しています。


「今日中に犯人(ホシ)はきっと動き出す(荒井・中尾両刑事がピストルを出し、準備万端であることをアピ
ールする)。恐らくまず、ヤクを買いに行く。ヤクが手に入り次第、今夜にも再び殺しを試みるだろうが、
それまでのホシの行動は全く予断を許さない。どんな所へ行き、どんなことをしてヤクを手に入れるか?
…まぁ我々としては、ホシから一時も目を離さぬ以外に方法はない。…良いか、ホシに気づかれずにホシ
から絶対に目を離すな!」

田口刑事は戸倉警部が動くのに合わせて、変装している刑事たちの服装や装備の確認をしています。

戸倉警部は、田口・中尾・荒井刑事とともに、主犯者の麻薬入手確認の報告があり次第、腰越へと急行する
ために自動車で待機、無電で指揮を執ることになります。


************************

戸倉刑事が、主犯の行動を見張る為に変装している刑事たちを前に訓示する場面は、1962年当時に横浜
市中区にあった神奈川県警本部分庁舎の屋上が、実際に神奈川県警の協力で収録に使われていたとのこと
です。

現在は、分庁舎のあった付近には神奈川芸術劇場(県民ホール)が建っています。拳銃も県警が貸してくれ
た本物だったとのことで、神奈川県警が全面的に協力していた、ということになります。

分庁舎は横浜市中区尾上町の、横浜市庁舎の正面に移転したらしく、神奈川県警尾上町分庁舎として運用
されているようです。

港に近いだけに、横浜の当時の街並みや港の様子なども明瞭に映し出されています。


※2016.06.24追記…現在の神奈川県警尾上町分庁舎の画像を掲げます。



この画像では、右側の3階建てのグリーンのネットが全体的に被せられている建物がそれです。



横断歩道対岸側、横浜スタジアム側から見た尾上町分庁舎です。交差点に向く建物の角がアールを描い
た様式です。若干古い画像資料では、建物全体を覆うネットが張られていない状態のものが紹介されて
いることが多く、ネットが張られたのはかなり最近になってからのようです。



若干南寄りに移動してみました。画像の左側、交差点の対岸にあるのは横浜市役所(中区役所ではない)
です。

ここは、JR関内駅の南口に近い場所です。この画像の背後に、横浜スタジアムがあります。


************************

場面は、夕暮れの山下公園に切り替わります。

竹内 銀次郎は、煙草をふかしながら港に停泊している船舶を、見るともなしに視線を沖の方に向けて
います。



船舶のエンジン音や汽笛の音に混じり、当時は普通に存在していたポンポン船の音も聞こえてきます。

竹内が山下公園の海側の手摺りの方へ歩いていくのに合わせて、サラリーマン風の男がやはり手摺り
に近づいてベンチに腰掛け、港湾労務者風のランニングシャツに首タオルの男も別のベンチに座り、
座面に体を横たえます。別のベンチには、公園でのデートを楽しむカップルも座っています。

竹内は、手摺りの石柱にもたれかかりながら煙草を吸い続けています。


覆面車両で市内を走っている捜査車両から、戸倉警部は無電での報告に対して「ホシはそこで売人と
会うつもりかな?」と竹内の行動について推測を発しています。

「いや、どうやら時間をつぶしているようですが…」竹内を見張っている連絡係の捜査員が応答します。

戸倉警部は後部座席の中尾刑事と視線を合わせ、どういうつもりなのだろう、という表情を見せます。


山下公園にいる竹内は、おもむろに腕時計で時刻を確かめます。そして、腰掛けていた手擦りから離れ
ると、市街地に向かって歩き出します。

サラリーマン風の男(捜査員の1人)が竹内の歩きだすのを確かめると、さりげなく腕を上げてサインを
出します。サラリーマン風の男は、小池刑事(演:鈴木 智)でした。ベンチに寝そべっていた港湾労務者
風の男が、小池刑事の合図で起き上がり、竹内の尾行を始めます。




竹内 銀次郎が手摺りに座っていた場所の画像です。ちょうどうまい具合にウミネコが羽を休めていまし
た。左側のウミネコが、竹内 銀次郎のこの場面での代役です。



映画では、少なくとも3つのベンチが沖合の方向に向くように置かれていました。現在はベンチ類は置か
れておらず、映画の美術セットとして設置されていた可能性もあります。

この画像の左側、路面が黄土色に舗装されている部分には、丸テーブルと椅子のセットがあります。その
近くには売店(コンビニ)などもあり、黒いアスファルトの部分は何らかの車両が入る可能性が(公園内なの
で、特別なイベントがある時限定かも知れない)ありますが、黄土色の部分には車両も入らないようにして
いるのかも知れません。



屋外に置きっぱなしと見え、この様に風雨に曝された状態になっています。



この場面自体が、山下公園内でも一番東側の端に近い位置で収録されたことが分かります。





山下公園自体が、神奈川県警本部にかなり近い場所であることも分かります。


(次ページに続く)



<① <② <③ <④

<戻る 次へ>


(参考文献は全て最終ページに)





picup