月光天文台月光天文台

公益財団法人 国際文化交友会 月光天文台

静岡県伊豆の国市の城山と神島橋
トップページ > 見聞録 > 『隠し砦の三悪人』-黒澤明監督に敬意を表して(その4-1)
城山・神島橋(狩野川河岸)-静岡県・伊豆の国市

隠し砦を出発、3頭の馬に荷としてくくりつけ、真壁 六郎太と太平・又七と3人の男たちが担ぐ薪に
偽装した軍用金はそのままに、唖のふりをして加わっている雪姫の計4人は、一旦足を止めてどの様
に関所を抜けるべきか、木陰で休みながら思案します。そして、意を決して出発します。
彼らは橋のたもとで、山名の追っ手から逃げようとする、農民や樵(きこり)などに扮した旧秋月の郎
党を見つけるべく、橋に関所を設けて、詮議を行なっている様子を見届けます。

太平と又七は、先ほど薪(中に秋月の紋所が刻印された金が隠されている)をもってずらかろうとした
ところを対岸にいた山名の兵に見つかり、六郎太にもそのもくろみを見破られただけに気が気でなり
ません。見つかったらただでは済まない--そうした思いが、この二人をびくつかせています(まあ、
初めから六郎太を欺こうとしなければそんな心配をしなくても良いのですが…)。

しかし、六郎太はこの関所を通り抜ける策を思いついたようで、少しも慌てず、太平・又七や雪姫の
方を振り返り、頷いて見せます。

手形を見せろ!と命じられた通行人たち、手形を見せて行ってよし!と先を促され、次々に通過して
行ってかなり早く六郎太たちの番が巡ってきました。



橋のたもとの番兵に「手形!」と高圧的に命じられた六郎太、馬の背に載せてある薪をその番兵に差
し出したため、「ふざけるな!」と怒鳴りつけられます。

すると六郎太、少しもひるんだり悪びれたりもせず、「変なものを拾ったんだ」とその薪を折り、中
の金の延べ棒を見せるのでした。「秋月の擂鉢山に行って拾ったんだが。」--

太平と又七は一瞬、驚愕します。この二人、一瞬「ばれた!!」と思い込んだのかも(笑)。
その番兵は驚き、三日月の紋所の刻印を見て秋月の軍用金と気付き、橋の関所奉行(演:小川 虎之助)に
その金を手渡します。


ちなみに、この関所の高圧的な態度をとる番兵を演じたのは佐田 豊(1911.03.30-)です。黒澤組に加
わっていた俳優陣の多くが鬼籍に入っている中(1981年4月の対談に出演した黒澤 明監督や太平・又七
・雪姫を演じた3名の俳優は2015年現在で全て泉下の人となっている)、現在も存命中の数少ない俳優
の一人です。
佐田 豊には劇中のセリフを発する場面がない映画も多くある中、『隠し砦…』にはセリフを発する場面
があり、その高圧的な態度は出演場面にもしっくりきています。準主役的な活躍をしているのは、『天
国と地獄』(1963)の運転手・青木の役であり、本人もその役が一番気に入っている、と述べています。


番兵が関所奉行に「あの下郎が擂鉢山にてこれを」、と金の延べ棒を渡したところ、奉行も「はっ、これ
は!」と息をのみ、擂鉢山で拾ったことを確認した後、「馬を曳け!」と他の番兵に命じます。

この場面が実に面白い! 六郎太、その金を拾ったのは俺だから俺のものだ、返してくれ!とわざと駄々
をこねて見せます。当然、侍より身分の低い樵のこと、まともに取り合う訳がありません。それを狙って
の行動なのです。成り行きを見守っていた又七や雪姫も、"上手いぞ、その調子だ!"と表情が明るくなり
ました。

六郎太:その金は俺のもんだ、返してくれ!
奉行:ええい、控えろ!
六:金を返さないなら褒美だ。褒美をくれ!
奉:ああ、それ!
番兵:は!…うるさい、とっと行け!
六:いやだ!褒美をくれないなら動かねぇ!
番:こいつ!行かないとこれだぞ!(槍で突くしぐさをする)
太平:(意外な成り行きにおどおどして)兄貴!
番:こら、立たんか、立て!
六:褒美だ、褒美をくれ!褒美もくれねぇのか?

六郎太、敢えてしつこく褒美を要求し、関所の番兵たちと押し問答を繰り広げます。あまりにもあっさり
引き下がると、却って怪しまれると考えたのでしょう。気位の高い相手の自尊心を逆手に取ったこの策、
見事に図に当たります。

雪姫もこの様子を見て、これなら欲の深い、偶然に秋月の定紋が入った金を拾った樵としか思わないだろう
と安心し、相好を崩して馬を曳き、関所を通り抜けてしまいます。

まずは、六郎太たちは第一関門を無事突破したのでした。


このページのトップ画像(カスタムメイン画像)には、狩野川沿いにある城山を背景にした、現在の神島橋
の画像を掲げています。
橋のたもとの関所の場面にて、背景に不気味な感じにそびえるのは伊豆の国市の、狩野川の西側にある城山
(じょうやま)です。この山の形状は実に特徴的で、筆者(U.M.)がこの映画を鑑賞した割と初期の時期に見覚
えがある…、と気が付いていた光景でした。

本コラムの執筆に当たり参照している参考文献の1つ『Mook21 黒澤 明 夢のあしあと』(黒澤 明研究会・
編/共同通信社・刊)の『隠し砦…』の項にも、ロケ地の1つとして紹介されていますが必ずしもその場所を
詳細に書いているわけではありませんでした。

城山の前景となる、関所に繋がる橋は神島橋であり、後に木製から鉄製の橋に掛け替えられています。
筆者の幼少時に家族旅行で伊豆半島の温泉旅館などに向かうとき、国道136/414号線からこの城山は車窓
から見えていたものでした。しかし、『隠し砦…』を鑑賞するようになったのはここ数年のことですから
それまでは分からなかったのです。映画とこのムックと、実際に現地を目指して出かけてみて、「ここだっ
たのか!」と認識した次第です。


ところで、六郎太たちが褒美を諦めて関所を通過し、先ほどまで褒美をよこせと駄々をこねていた六郎太に
対して「欲たかりめ!」と声を投げかけた番兵たちは嘲笑い、それに調子を合せて笑っていた関所奉行たち
役人も面倒な奴らを厄介払い出来た、と腰かけます。

そこへ蹄の音を響かせて一人の伝令がやってきます。
伝令は、以下のごとく伝令の内容を関所奉行に伝えます--荷を付けた馬 二・三頭、それを曳く男数名、それ
に若い女が一名、この様な一行を見かけたら容赦なくひっとらえよ!秋月の雪姫と郎党数名、この方面に立
ち回った形跡がある。

関所奉行は、「しかし、雪姫は既に打ち首と」とそんな一行が来るようなことはあり得ない、と言下に否定
しようとします。

伝令はさらに畳みかけます--身代わりを立てて難を逃れた例(ためし)はままある!!-先刻も対岸の山に煙が
上がったのを見たであろう?あれは秋月の隠し砦じゃ。今日(こんにち)我らが見出したところ秋月の老将・
長倉 和泉、他郎党二名、逃れれば逃れられたものを砦に火を放ち、最期まで戦った。思うに、何者かを逃
がし、それに急を知らせ、出来うる限り時を稼いだと見える。(奉行、ここまで言われてさすがに表情が曇
る)--間違いなし、姫と郎党数名、軍用金を馬に積んで山を下った。この川を下る山道にその足跡があるの
だ。良いか、手を緩めるな!姫と軍用金を拿捕すれば勲功第一ぞ!

これだけ関所奉行に告げると、他の関所にも伝令しようとしていたのでしょう、そのまま馬を駆って去って
行きました。

役の上でこの登場人物は「伝令の騎馬武士」(演:大友 伸)とされていますが、その言葉使いや馬に乗ったまま
奉行に伝達をするなど、奉行よりも位の高い武士と見受けられます。また、その冷静かつ的確な状況分析の
仕方からも、戦場では何度も勲功をあげているであろうことが感じ取れました。
一方、関所奉行はこれを聞いて崩れ落ちるかのように座り込みます。拿捕するどころか、伝令がいうような
一行をみすみす逃してしまったのですから、山名のお殿さまからの叱責は当然、降格もありえたでしょう。


しかしながら、六郎太の一行が関所を通過して、ほとんど入れ替わりのように騎馬武者の伝令が関所に掛けつ
けているのだから、すぐに追っ手を出せば雪姫らを発見して捕縛できそうにも思えます。なぜ、関所奉行は諦
めてしまったのでしょうか?

その答えも、前述の『夢のあしあと』に書かれています。『隠し砦…』自体、日本の伝統芸能である能の影響
を強く受けています。雪姫の眉毛がつり上がっているかのようなメーキャップがまさにそうですし、映画の中
での時間経過も同様に、ある場面から次の登場人物が現れる場面に変わった時、かなりの時間が経過している、
とのこと。
関所奉行が気がついた時点で追っ手を出しても最早彼らを見つけることは叶わず、徒労に終わる可能性が極め
て高く、落胆していた、という図式になるようです。

また、秋月の国を滅ぼして慢心した山名方の将兵たちが、その慢心ゆえに目が曇り、高圧的な態度で厄介払い
したその相手が、正に自分たちが捕縛しようとしていた秋月方の世継ぎとその郎党一族であり、その郎党一族
の一世一代の芝居にまんまと一杯喰わされた--その対比を鮮明にするという製作側の意図もあったのでしょう。

この場面は恐らく、"Star Wars Episode IV- A New Hope"(1977)の、Lars伯父夫婦を銀河帝国軍に殺さ
れて天涯孤独になったLuke Skywalkerが、Obi-Wan KenobiにC-3PO・R2-D2とともに連れられて沙漠の
惑星タトゥーインから惑星オルデラーンに向かう宇宙船を探すべくモス=アイズリー宇宙港付近に行き、帝国
軍兵士たちの検問にJEDIの騎士・Obi-Wanがフォースの術(マインド=トリック)をかけて追跡の手を逃れる
場面のもとになったのでしょう。


さて、このページではあと2点ほど、現在の城山および神島橋の様子をとらえた画像を掲げておきましょう。



こちらは、狩野川の神島橋を下流側(つまり北側)から、河川敷に降りて城山を見上げた様子です。『隠し砦…』
の映画の、六郎太一行が橋を渡ろうとする場面に一番近い視点での1枚です。この日は、比較的天気が良くて
城山付近をパラグライダーが気持ちよさそうに飛んでいました。

2015.07.08の追記…この城山の向こう側、つまり南側が、『七人の侍』(1954)に出てくる村の南側の田畑に
水を入れて防衛線とした場所(静岡県・伊豆市堀切)です。この様に、かつての映画のロケ地にかなり近い場所を
後の映画のロケ地に選定していることがあるのです。

 『七人の侍』ロケ地巡り「その3」
 『七人の侍』ロケ地巡り「その7-3」
 (参考)



こちらは、神島橋の下から北東方向に視野をおいた画像です。画面中央に映るのは伊豆縦貫道です。この
近辺も、近代的構造物やインフラなどが整備され、だいぶ光景は変わりました。前回の「その3」にも書い
ているように、ここから数km北側の下流よりには沼津市口野に接続する狩野川放水路があります。

狩野川放水路は、狩野川が悪天候下で増水した際の、河川流域の治水対策で建設されたバイパス水路です。
『隠し砦…』収録が行われた1958年にはその狩野川放水路が建設の真っ最中(1951年に着工)で、その完成
を待たずに狩野川台風の増水・河川氾濫の被害に遭ってしまいました。

後ほど詳しく取り上げる予定ですが、黒澤監督は御殿場ロケで100日にも及ぶ「天気待ち」をすることに
なり、その年には3回も台風が上陸した、と述べています。その内の1つが、狩野川台風(1958年台風22号
/Ida-アイダ)だった、という訳です。


ロケ中心の映画はまさに天気次第。非常に苦労されたのでしょう。


この映画から47年後、TBSは『あいくるしい』(2005)という、伊豆方面を舞台とするホームドラマを製作
・放映します。3世代7人家族の、祖父が「村の天文台」管理人で、父がタクシー運転手、長女・長男・二男
・二女という構成のドラマでした(その「村の天文台」というのが、月光天文台、つまり筆者の勤務先です)。
管理人役の祖父は真柴 明示(演:杉浦 直樹-故人)で二男である幌(ほろ-演:神木 隆之介)のよき理解者、父・
徹生(演:竹中 直人)は病床にいる妻の由美(演:原田 美枝子)を気遣いながらタクシー運転手を務めています。
このドラマの冒頭で、徹生がお客を乗せて走るタクシーの場面の背景に、城山が鮮明に映し出されていまし
た。県道129号線を南下する場面でした。



(次ページに続く)


<① <② 

<戻る 次へ>


(参考文献は全て最終ページに)







picup