地球倫理の普及と構築に向けて」

   

地球規模での思考が必至の時代

 環境問題が世界の話題に上るようになったのは1970年代に入ってからである。先進国において増加する開発行為によって環境汚染が激しくなり始め、1972年にストックホルムで開催された「人間環境会議」では、いわゆる公害問題が取り上げられたのである。貧困にあえぐ途上国から「公害を出す国がうらやましい」という言葉が出たことに、複雑な思いをしたことを記憶する。当時、まだ地球温暖化も熱帯林の激減の問題も話題には上らなかった。

 以来、30年近くを経過するなか、事態の深刻さが認識され始め、1987年には「持続可能な開発」という新しい理念がまとめられ、持続可能という用語がすべての開発政策の基本原則となったのである。1992年の「地球サミット」と呼ばれる国連主催の「環境開発会議」では、国際的に遵守すべき原理原則を定めた「リオ宣言」や行動計画「アジェンダ21」その他の条約が合意され、大きな成功を収めたと評価されている。

 そして、以後さまざまなテーマについて国際会議が開かれ決議や合議もなされ、各国政府の努力もなされてはいるが、総体的に見たとき、環境の改善が進められるどころか、環境悪化は新しい要因も加わり複雑かつ困難さを増している。国家のエゴや利害が錯綜し、合意された事項も実態は遅々として進んでいない状況であるといえよう。このまま進めば早晩、人類は未曾有の事態に直面せざるを得なくなることを覚悟しなければならない。

 
例えば地球温暖化問題。気候変動に関する政府間会議の報告によれば、1990年に比べて2100年には地球の平均気温が2度、海水面が50センチ上昇するという。一般の人は「平均気温が2度位上ったって大したことないではないか」と遠い話としてしか聞かない。あるいは自分一人がどうこう考えてもどうなるものでもない、と。しかし、それによって生ずる諸々の現象は、地球上のあらゆる生態系に大きく影響を及ぼす、計り知れない恐ろしさを孕んでいる。平均気温2度の上昇は、地域によっては数倍の上昇となり、それが大気や海水に変化を起こし、遠くの地域にも深刻な影響をもたらすという。まさに地球は一体の生命体であることを思い知る。

 その動向については科学者たちの調査や観測結果に待つよりほかないが、気温の上昇については、その要因やその結果生ずる現象についてまだまだ未知の部分も多い、と聞いている。科学者たちを載せた宇宙船が空を飛び、空からの観測と研究も続けられている。

 私たちの住む「母なる地球」の実態にはまだまだ未知の世界があるということは、人間の取り組み次第では可能性もあるということなのかもしれないし、その逆であるかもしれない。今、言えることは、およそ100年の間に平均気温が2度も上昇するという急速な気温変化を、地球は少なくともここ1万年の間に経験したことがない、ということだ。それぞれの国の独立性を尊重しながらも、それを超えた地球規模の枠組みで意識を変えて行動の規範を設けることが必至の時代である。それが地球道徳、地球倫理である。

地球 ・写真提供 NASA




 文化的多様性は人類の遺産……

  地球倫理についての言及は、1997年に採択された「環境倫理に関するソウル宣言」や、同じ年にインターアクション・カウンシル(通称:OBサミット)が提案した「人間の責任に関する世界宣言」、さらにモーリス・ストロング氏が主宰する地球評議会(Earth Council)の発行した「地球憲章」等がある。この地球憲章では、「私たちの文化的多様性は有益な遺産であり、異なる文化はそのような(持続可能なライフスタイルへの)ビジョンを実現するための異なる際だった方法を提案しうる」と述べられている。

 また、ワールドウォッチ研究所のクリストファー・フレイヴィン氏は、同氏編著の地球環境データブック(2001〜02)の概観の部分で次のように述べている。「人間社会と自然環境の状態は、望ましくない変化に直面したときにそれらの内蔵する機能の強さと密接に関連する。こうした場合の機能の強さは概ね多様性からくる。しかし、現代の社会と経済は専門化を追求し、その結果、地球上の生物学的・文化的多様性が急速に失われている」。


 地球倫理は今、地球環境倫理である。地球憲章の前書きにあるように、前に進むために私たちが認識しなければならないことは、「極めて多様な文化や生活の中で、私たちは一つの人類家族メンバーであり、共通の運命をもつ共同体のメンバーである」ことである。倫理を構築する時、自然環境、文化、伝統、歴史の多様性、それと同時にグローバルな共同体という現実を考える必要がある。したがって、多様性の中から発する環境倫理を地球倫理として認めるが故に、その地球倫理にも多様性があり、かつ多様な「おのおの」を地球環境全体に対する人びとの意識として発展させた時にも、矛盾を生じず人の心に根を生やし得る規範でなければならない。
 

 

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