「奇しびなる生命の連鎖」

− 宇宙から人間へ −

  第2章  ヒトの生命 - 神の大芸術

貧困、人口、そして環境問題

 同じように、たとえば貧困問題にしても、今世紀の初めころまでは、水が高いところから低いところに流れるのが自然であるように 人口増加は豊かな国や豊かな地域で起こるものであり、貧しく不便な国ぐにでは増加率が低いと考えられてきました。それが、専門家の予想をも裏切って、発展途上国といわれる南の貧しい国ぐにで顕著となり、有効な対応手段を見出せないまま現在に至っています。世界銀行をはじめ、国際機関やそれぞれの国の努力にもかかわらず、近い将来に貧困問題が軽減される見通しはありません。人口増加率が現状のままで推移すると、貧困状態がとくに厳しいアフリカでは、今後25年で人口が倍になると推定されています。ヨ−ロッパでは人口の倍増に140年かかると推定されていますから、実に6倍近い早さでの人口増加です。

 環境問題も同じです。たとえばフロンガス。フロンは炭素に塩素・フッ素の原子が結びついた化合物の総称で、これが開発された当時は無毒で燃えにくく、化学的にも安定しており、金属を腐食しないため、すばらしい発見だともてはやされたものでした。このため工業分野はもちろんのこと、私たちの日常生活のなかでさえ“なくてはならない”ほど重宝なガスとなりました。その活用例は冷蔵庫やエアコンの冷媒、スプレーの噴霧剤など、数え上げればきりがありません。

       マニラのスモッグ
       ○スモッグで覆われたフィリピンの首都・マニラ
       途上国を中心に大都市圏の公害問題は年々
       深刻となりつある。(提供・フィリピンの日本大使館)

 1974年にアメリカの化学者ローランドが、大気中に放出されたフロンガスが成層圏に達し、そこで強烈な紫外線を浴びて分解され、塩素原子を放出していることを発見し、連鎖反応的にオゾン層を破壊する可能性がある、と指摘したときもほとんど問題になりませんでした。しかし、1982年に 南極観測にあたっていた日本隊が“オゾンホール”という成層圏にオゾンの穴が開く現象を初めて観測してから、フロン問題が急速にクローズアップされてきました。南極上空にオゾンの穴が現われるとは誰も予想していなかったのです。少量を用いれば素晴らしい効果を発揮する薬が、多量に飲めば恐ろしい毒となるようなものです。

 現在はフロンを規制するための国際条約が定められていますが、必ずしも各国の足並みが揃っているとは言い難いのが実情です。このことはニ酸化炭素の排出量を規制する条約にもあてはまります。人間の活動によって滅びるようなひ弱な地球ではありませんから、まず先に滅びるのは人類ということになりましょうが、そのような滅亡の目前にあってさえ、生存のために足並みを揃えることができないのは宇宙意思を体得できない人類の悲しい性(さが)なのでしょうか。

 人口問題に関しては、人口学者がよくこんな例え話をする、と聞いたことがあります。「池の中に一株の蓮が生えた。これは年々2倍になり、100年後に池一杯になって窒息全滅した。ではこの蓮が池の半分を占めたのは何年目か。答えは99年目、すなわち全滅の前年である」。池を地球に 蓮を人口に置き換えてみようということです。98年かかって池の4分の1を覆っても危機感はありませでした。翌年、池の面が半分になった時でも、誰もそれほどあわてなかった。しかし、死滅は翌年に来ていたというのです。

 人口増加、地球温暖化、酸性雨、オゾン層破壊などの要素が重なって魔の“99年目”をもたらす可能性を誰が否定できるでしょうか。その場合、150億年のかなたから連綿として続いてきた「生命の流れ」はどうなるのでしょうか。私は世界の人びとにこのことを強く訴えたいのです。



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  進む遺伝子の研究

 さて ヒトの体は約60兆個の細胞で構成されていると述べましたが、遺伝子といわれるDNA(デオキシリボ核酸)は、その細胞の中のさらに小さな核の中にあります。遺伝子DNAの構造が解明されたのが1953年といわれていますから、まだ40年しか経っていません。しかし、この間の遺伝子に関する研究の成果には目を見張るものがあります。

 DNAは
2本の糸がらせん状にからみあっていて その2本の糸が離れないように塩基と呼ばれるものが対になってつないでいます。1個の細胞の中にある、 DNAを取り出して端と端でつないで1本のひもにすると全長2メートルもの長さになるそうです。もちろん、これとて肉眼で見える存在ではありません。そして、2メートルもの長さの糸が直径数マイクロメートルの細胞核の中にたたみ込まれているというのですから、想像を絶します。

 塩基には
4種類あり、その配列は無限で、その配列1つひとつが貴重な遺伝情報となっているというのです。1個の細胞の大きさが100分の13ミリメートルで、その中の核と呼ばれる部分に30億もの塩基対が詰め込まれるのですから、超ミクロであるのは当然ですが、このような極小な存在にまで秩序と法則が保たれていることを知るとき、大自然の力の深遠玄妙さに頭が下がるばかりです。
 ところで、30億ともいわれる塩基対からなっているヒトの遺伝子の中で、有効な機能をもつ遺伝子はわずか5パーセントにすぎず、95パーセントは這伝子として機能していないとのことです。この5パーセントのうち、現在までに塩基配列と機能の両方が解明されている遺伝子DNAは約20005000個だそうです。そして、この解明された遺伝子をめぐって世界の科学者たちの問で特許争いが演じられているという次第です。

 ここで注目したいのは、遺伝子とはいいながら、DNAのほとんどが“無駄”な存在だということです。本当に無駄なのかどうかは今後の研究にまたなければならないでしょうが、有効な機能をもったDNAを銀河や星にたとえれば、無駄なDNAは宇宙の
90パーセント以上を占める暗黒物質と対比することができます。すなわち無駄であると見えるものが実際は無駄ではなく、全体を支える有効な存在であるのかもしれません。ということは、むしろ未来への発展の要素が存在しているとも考えられるのです。

 とはいえ、DNAには生命の流れの基本である遺伝情報が満載されており、それは非常に重要な存在です。動物ばかりでなく、植物もその構成要素の基本はアミノ酸で作られているわけですが、生命のもととなったアミノ酸が地球で初めて作られたのが約35億年以前だといわれています。そのアミノ酸をもとにして単細胞の原始バクテリア類やラン藻類が生命体として誕生しました。これら最初の生命体の中にはすでにDNAが存在しており、その働きによってバクテリアやラン藻類の子孫が生まれ、現在にいたっている、というのが通説です。

 日本人の精神文化の源であるコメ〈イネ〉 とヒトとの間にも、共通の遺伝子が意外にたくさんあるようです。農林水産省がすすめているイネの遺伝子解読計画である「イネゲノム計画」では、これまでに解明したといわれる働きがわかっている遺伝子約200のうち、ヒトと共通の遺伝子が28もあったそうです。
 今後さらに研究がすすめば、もっと多くの共通遺伝子が解明されることでしょう。このように、生命を維持する最低限のシステムのなかでは、動物も植物も、ヒトもイネも、基本的には同じだということを共通遺伝子の存在が証明している、ということになります。宇宙の初発に源を発する「生命の連鎖」システムがあらゆる生命に普遍的に及んでいることがわかります。

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