遺伝子が極微の世界であることは指摘したとおりですが、極大(マクロ)の字宙創造を探る作業も、実はもうひとつの極微(ミクロ)の世界に関する学問の発展が決め手になったことはいまや常識となっています。つまり、「量子力学」といわれる学問の分野です。量子という言葉は私たちの日常生活のなかではほとんど登場してきませんが、原子や分子を扱う学問では、「粒子」という一定の大きさのものの単位を量子と呼んでいます。たとえば、人間を数える場合に0.5人とか1.5人とかいうように端数がでることはありません。ですから、人間1人を最少の単位とすると、この1人が量子に相当する存在となるわけです。
私たちは空気と水がなければ生存できないことは当然ですが、光も生存には不可欠です。光によって世の中が見えてくることはもちろんですが、光はまた熱エネルギーの源です。たとえば、地球そのものの温度はマイナス18度だといわれていますが、もし太陽の光がなかったら、地球は氷の惑星となって人類の生存はおぼつかなかったでしょう。太陽の光のおかげで地上の平均気温が15度に保たれ、人間や他の生物の生存が可能となっているわけです。
この太陽の光が、実は「波と粒子」の2つの面を同時に兼ね備えている、というのが量子力学によって導かれている結論なのです。光は波だ、ということを理解するのは物理学者でない私たち一般人にとっても、そう難しいことではありません。ラジオを聞いたり、テレビを見たりすることができるのは、電波があるからであり、その延長として光は目に感じる波長の波だ、と考えればよいわけです。太陽からの有害な紫外線が地上に届くのを防いでくれているのがオゾン層ですが、ここに登場する紫外線も太陽から出る光の波長のひとつなのです。
いまや電子レンジはほとんどの家庭に普及しています。これを使えば煙を出さずに魚を焼くことができます。お酒の燗をすることもできます。これはマイクロ波や遠赤外線の作用によるものですが、人間の目には見えないものの、光の波を魚や煮物など温める物体に当てて熱エネルギーに変えて焼いたり煮たりしているのです。したがって、光は波なのです。専門的には、“波動”と呼ばれています。
ところで、光は粒子である、ということは普通の人にはすぐに理解できることではありません。あの有名なアインシュタインは、光が粒子であることを証明してノーベル賞を受賞しました。そして、光の粒子を「光子」と表現しました。そして量子力学では、粒子と波動が混在していて一方だけに決めつけることはできない、としています。これはあくまでも超ミクロの世界の現象です。
ところが、超ミクロの世界で起こり得るこのような現象が、宇宙創造の解明に決定的な役割を果たしたというのです。量子力学の考え方では粒子であると同時に波なので 少々の壁なら透過できるはずです。この現象を「トンネル効果」と呼んでいますが、ビッグバンと呼ばれる宇宙誕生のときに、宇宙のタネとなったものがトンネル効果によってそのタネを覆っていた壁を突き抜け、それから宇宙が成長したという解釈です。
私たちの周囲には小さな種籾でさえ、殻がそのままの状態で芽だけが外側に出る、というようなトンネル効果現象はありえません。初期の宇宙は種モミよりもはるかにはるかに小さな存在だったと考えられています。もし、量子力学が発達していなかったら、今もって宇宙創造の原理を探る}」とはできなかったかもしれません。したがって、生命の起源をもたどることができなかったでしょう。量子力学が相対性理論とならんで20世紀の物理学を発展議せた最も重要な原動力だ、といわれるのはこのためです。量子力学が宇宙論に与えたもうひとつの非常に大きな影響は「真空のゆらぎ」の存在です。それ以前の物理学では、エネルギーがゼロの状態では真空となり、真空では電磁波といわれる波が消滅する、すなわち、真空の状態ではすべてが無になるといわれてきました。真空が無の状態であることは私たちにでも容易に理解できる論理です。これに対して、量子力学では、真空でも“ゆらぎ”は存在するとしています。150億光年かなたの宇宙創造の時代は何もない真空だったのでしょうが、やはり、タネとなる“ゆらぎ”があったという仮説は、量子力学で初めて成り立つのです。
量子力学という超ミクロの現象を探る学問が、その対極にある宇宙という超マクロの進化を究明する学問に生命を与えるという、不思議な巡り合わせを思い、そして、この大宇宙のなかで生命の連鎖が絶えることなく続いていることが科学的にも立証される時代に生かされているとともに、感動を覚えます。